いろたし日記

ボードゲームとアメリカ生活をメインとしたブログです。誰かの人生にちょっとだけ色を足すようなブログになれたら。

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【読書】ツチヤ タカユキ著「笑いのカイブツ」を読んで異郷の弟を想う

これまでバイオサスペンス系の小説ばかり読み、私小説を全く読まなかった私が、海外のバックパック紀行を描いた長編「深夜特急」を読み、あれよあれよという間に、私小説にどっぷりはまり、ふとしたきっかけで目にした本。

 

 

 

 

今回紹介するのは、「笑いのカイブツ」。noteで連載されていた人気私小説が書籍化したという、なんとも今風な出版経緯を持つ小説。「中身も、ネット時代のお笑いを批評した、今風の内容なのかな?話題の本なら読んでみよう」という軽い気持ちで購入した。

 

そこには、想像と全く異なった、お笑いを追求し、孤独と戦いながら体当たりして不器用に生きていく、一人の人間の生き様が書かれていた。

 

このタイトルにもある「カイブツ」とは、ファンタジーの怪物ではなく、筆者が人間をはみ出した時に生まれた「カイブツ」を指している。

 

ハガキ職人という、思いついたボケをラジオ番組の応募コーナーに送り続けるという習慣もおそらくあいまって、作者の文章もうまい。引き込まれるような感覚は久しぶりだった。

 

 

私は大阪で生まれ育ったため、難波や繁華街の描写がやけにリアルに想像できたのも、高評価の要員として大きいかもしれない。しかも筆者と同世代だ。あの時代、あの場所で、こんなにもがき苦しみ、笑いと向き合って戦った人がいたのだ。

 

この本の舞台でもある大阪の中心地ミナミで、今は無きBASE吉本がグランド花月前にあった頃、まだ売れていない若手芸人が、天王寺や心斎橋に出向き、500円でチケットを売っていた。私はそのチケットを買い、足を運んだ劇場で、ちょっと面白そうな芸人を見つけ、再度足を運び、少しずつファンになり、人気が出る前から出待ちする。

売れるようになった芸人は、出待ち時の態度も変わっていく。TVに出演するため、拠点を東京に移す。「ああ、あの芸人、昔から知ってたのにでかくなって遠くなっちゃったなぁ」と、中学生の分際で思っていた。そんな懐かしい思い出も、この本が思い出させてくれた。

 

かくいう私の弟も、芸人を目指していた。弟は今年30歳になる、私とは年子姉弟だ。奇しくも、この本の作者と同い年である。気に入った芸人の動画を何度も何度も見て、お笑いのセオリーに乗っ取っているか考察し、教本を買ってパターンを学び、NSC(吉本興業のお笑い学校)の資料を取り寄せ、自分はツッコミの方が向いていると判断し、高校時代には相方を探していた。そこから、紆余曲折あり、今は事務職をしながら、ある道でパフォーマーを目指している。お笑い芸人という道を諦めパフォーマーを目指すようになった経緯は、親元を離れたため詳しく聞いていない。でも、芸人を目指していたあの時も、今も、夢に向かって弟は生き生きしている、と思う。やはり、芸人を目指して何かを行動をしたという人間に対し、こうも感情が動かされるのは、おそらく弟を身近で見てきた影響なのだとも思う。そしてこの小説の主人公に、弟を重ねた。

 

幼少時代や、遠くに住んでいてパフォーマーを目指す弟のことを思い出させてくれる、私にとって、かけがえのない小説になった。これがフィクションではなく私小説というのも大きいだろう。

 

 

いつもと違う感情の部分が動かされ、気づいたら静かに読書感想文を書いていました。

かなりオススメなので、是非読んで見てください。ではでは。